たねやつの木

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Alibabaの新世代モデル「Qwen3-Next」の噂。アクティブ3B/80Bの超効率モデルはローカルLLMを変えるか?

こんにちは、たねやつです。

先日、ローカルLLMのコミュニティサイトであるRedditのr/LocalLLaMAにて、Alibaba Cloudが開発する新しい大規模言語モデル(LLM)「Qwen 3-Next」シリーズが発見され、大きな話題を呼んでいます。

特に注目を集めているのがQwen3-Next-80B-A3B-Instructというモデルで、その名が示す通り「総パラメータ数80B(800億)に対して、アクティブパラメータ数はわずか3B(30億)」という驚異的な効率性を実現している点です。

今回は、この新しいモデルがどのような技術で成り立っているのか、そして私たちのローカルLLM環境にどのような変革をもたらす可能性があるのかを、現在公開されている情報から深掘りしていきます。

この記事でできること

  • Qwen 3-Nextシリーズの概要を理解できる
  • 80Bモデルの革新的なアーキテクチャについて学べる
  • 既存モデルに対する性能と効率性の利点がわかる
  • ローカル環境での実行に向けた期待と課題を把握できる

Qwen 3-Nextとは? - 驚異的な効率性を誇る新モデル

Qwen 3-Nextは、Alibaba Cloudが開発を手掛けるオープンソースLLM「Qwen」ファミリーの次世代モデルです。その存在が明らかになったのは、Hugging Faceのtransformersライブラリへのプルリクエストがきっかけでした。

コミュニティが特に沸いたのは、Qwen3-Next-80B-A3B-Instructというモデルの存在です。主な特徴は以下の通りです。

  • 総パラメータ数: 80B (800億)
  • アクティブパラメータ数: 3B (30億)
  • コンテキスト長: 不明(32K以上?)

総パラメータ数は多いものの、推論時に実際に動作する(アクティブな)パラメータが非常に少ない、いわゆる「スパースモデリング(疎なモデル)」の考え方を極限まで推し進めた設計となっています。

革新的なアーキテクチャの秘密

なぜ、これほどまでにアクティブなパラメータを少なくできるのでしょうか。その秘密は、いくつかの新しいアーキテクチャ上の工夫にあります。

High-Sparsity MoE (高スパース性Mixture-of-Experts)

MoE(専門家の混合)は、複数の専門家(ニューラルネットワークの小さな塊)を用意し、入力されたタスクに応じて最適な専門家だけを呼び出して処理させる技術です。これにより、モデル全体のサイズを大きくしても、推論時の計算量を抑えることができます。

Qwen 3-NextではこのMoEをさらに推し進め、アクティベーション比率(呼び出す専門家の割合)を1:50という驚異的なレベルまで高めています。つまり、50人の専門家のうち、たった1人だけが仕事をするイメージです。これにより、計算コストを劇的に削減しています。

Hybrid Attention (ハイブリッドアテンション)

LLMの「頭脳」とも言えるアテンション機構にも工夫が凝らされています。標準的なアテンションの代わりに、「Gated DeltaNet」と「Gated Attention」という2つの技術を組み合わせたハイブリッド方式を採用。これにより、特に長いコンテキスト(文章)を処理する際の効率と性能を高めています。

Multi-Token Prediction (MTP)

従来のLLMがトークン(単語や文字のかたまり)を1つずつ生成していたのに対し、MTPは一度に複数のトークンを予測する技術です。これにより、文章生成のプロセスが高速化され、推論速度の向上に貢献します。

性能と効率 - 少ないコストで高いパフォーマンス

この革新的な設計により、Qwen 3-Nextは驚くべき性能と効率性を両立しています。

  • 学習コスト: なんと、前世代のQwen3-32Bモデルの10分の1以下の学習コストで、それを上回る性能を達成したと報告されています。
  • 推論スループット: 特に32,000トークンを超えるような長い文章を扱う場合、推論のスループット(処理能力)が10倍以上も向上するとのこと。

これは、LLMの運用コストを大幅に下げつつ、より高度なタスクをこなせるようになることを意味します。

ローカルで動かすためのハードルと期待

さて、我々ローカルLLMユーザーにとって最も気になるのは、「このモデルは手元のPCで動くのか?」という点でしょう。

理論上、アクティブパラメータが3Bであるため、推論に必要なVRAMは比較的少なく済む可能性があります。例えば、4bit量子化を施せば、理論値では2GB程度のVRAMで動作するかもしれません。

しかし、モデル全体のパラメータ(80B)を保持するためには、相応のメインメモリ(RAM)やストレージが必要となります。この巨大なモデルデータをどう効率的に扱うかが、ローカルで実行する上での鍵となりそうです。

とはいえ、今後llama.cppのような推論エンジンが最適化を進め、GGUF形式などの量子化モデルが登場すれば、現在では考えられないようなロースペックな環境でも動作するようになるかもしれません。

最後に

Qwen 3-Nextが示した「超スパースモデリング」というアプローチは、今後のLLM開発における一つの重要なトレンドになる可能性があります。これまでのように、ただモデルサイズを大きくして性能を上げるのではなく、「いかに賢くサボらせるか」という観点で性能と効率を両立させるこの考え方は、特にリソースに制約のあるローカル環境にとって大きな福音です。

オープンソースLLMの進化の速さには驚かされるばかりですが、この新しいモデルが私たちのAIライフをさらに豊かにしてくれることは間違いないでしょう。今後の続報に期待です!

参考・引用