こんにちは。たねやつです。
今回の記事では、ABSフィラメントを使用して印刷と調整を進めていきます。前回アクリルパネルを貼ることができたのでこれで庫内を温めながら印刷することができるようになりました。
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前回はフィラメントのガイドを作成しました。
ABS印刷の準備
環境が整ってきたのでABSで印刷してみます。
フィラメント
当然ですがPLAではなくABS用のフィラメントが必要となります。SIBOORキットが使用しているフィラメントはeSUN ABS+
とのことなのでそれを使用すると現在の部品との色味を完全に揃えることができます。PLAもそうですがeSUNのフィラメントは個人的にベストな価格と扱いやすさなのでメインで使用しています。ただしコールドホワイトだけは使用しないほうがいいです。自分も知らずに買ってしまったのですがこの色だけは誰が使っても上手く行かないようです👀。
ケープは必需品
ABS印刷との戦いは1層目の反りとの戦いと言っても過言ではないです。PLAよりも収縮が激しく1層目が剥がれて動いてしまったり、庫内が十分温まっていないと層間結着が弱く割れてしまったりすることが多々発生します。
設定だけではどうにもならないこともあるので、失敗率を下げるためにビルドプレートに接着剤を塗る手法は結構昔から存在しているようですが、日本にはケープという強い味方がいます!!!自分も高校生時代に使ってたり妻は今でも使用してるので定番商品ですね。なくなってもドラッグストアに行けばどこでもおいています👀!しかも3Dエクストラキープ
といううってつけの商品バリエーションもありますし...笑
自分はスーパーハードのものを使用しています。張り付きが強すぎで剥がすのに苦労するぐらい。
金属スクレーパーもあったほうがラク
Zオフセットが過小な状態で印刷すると非常に強くビルドプレート面に張り付くため、ビルドプレートを曲げたぐらいでは外れない時があります。はずれないというか2層目以降から裂けるという感じでしょうか...
そういうときに剥がすためには先端が刃物になっている鋭いスクレーパーが便利です。あまり強くビルドプレートに押し付けてしまうと傷つけるので取り扱いには注意です。
一箇所でも剥がすことができればあとはビルドプレートを曲げれば一気に剥がれます。
スライス設定
公式の設定に従う
スライスの設定をVORON Design公式のものにしてABS部品を印刷していきます。今までに作成したフィラメントガイド等は印刷品質に影響しないものだったのでどんな設定でも良かったのですが、ボルトで締め込んだり力のかかる部分になるので設計上の正しい設定で印刷します。
公式の設定は以下のとおりです。
設定名 | 和名 | 値 |
---|---|---|
Layer Height | レイヤーの高さ | 0.2mm |
Extrusion width | 線幅 | 0.4mm |
Infill percentage | インフィル率 | 40% |
Infill type | インフィルのタイプ | grid, gyroid, honeycomb, triangle, or cubic |
Wall count | 壁(Perimeter)の枚数 | 4 |
Solid top/bottom layer | トップ/底面の枚数 | 5 |
Support | サポートの有無 | No |
Extrusion Width
に関してはPrint SettingsのAdvanced
タブ内から変更できます。0.4mm
ノズルのプロファイルを使用している場合は多分すべて0.44mm
とかになっているはずなので0.4mm
にします。
インフィルのタイプは挙げられているものならなんでもOKですが自分は模様が好きなのでGyroidを基本的にどのモデルでも使用しています。
Wall count
は印刷物の外周の数ですがPrusaSlicerではPerimeter
として表現されています。
VORONの公式パーツはすべてサポート不要で印刷可能です。MODも基本的にはそれを踏襲してみなさんサポート不要な形状で作成されています。
設定を変更したら保存しておきます。デフォルトの設定はそのままに別名の設定で保存したほうがいいです。
ちなみに私はVORONの機構部品以外の部品をこの設定からPerimeter
を3
にして、Solid layer
をどちらも3にし、Infill %
を15
にしたものを使用しています。大抵の印刷物もこの設定を使用して印刷しています。
スピードはとりあえずプリセット
Speed
タブから印刷のいろんな状況での速度を変更することができますが、とりあえずデフォルトのままで進めます。この辺の値は使用しているフィラメントはノズルによってまちまちなので自分の環境で試してみてください。InfillやPerimeterのスピードはデフォルトよりももっと速くてもいい気がしていますが。
Input Shaperの調整
次にInput Shaperの調整を行います。Input Shaperとは何だ?という方は以下のtakeotaさんの記事でとても詳しく書かれています。
SB2209に内蔵されているので楽ちん
今回のSB2209を使用したキットの場合、すでにボードにADXLモジュールがついているので追加設定不要で即調整することができます。以下のコマンドをKlipperで実行するとX軸とY軸が振動して計測が開始されます。
SHAPER_CALIBRATE
両方の軸で完了したらSAVE_CONFIG
して保存します。
壊れる前に印刷しておく
じゃあABSで何を印刷しようとなるのですが個人的な強いおすすめはTAP
の土台部分で、その次にStealthBurnerの部品下半分もしくは全部です。
TAP部品
TAPの土台部分(リニアレールが乗っているやつ)は正直言ってめちゃくちゃ壊れやすいです。リニアレールと部品を締結する部分の一番上のボルトの部分が非常に薄くかつサポート上に出力されているためさらに強度が落ちています。とはいえココをしっかり締め込まないとリニアレールがぐらつくようになりTAP動作時に大きな誤差を生じるようになります。
動かし始めてから1-2ヶ月でこの部分を2回ほど交換することになりました... あまりにも交換頻度が高いのでAliExpressで売っているCNC部品に換装することになりますがそれはまた別記事です。
X上で見ている限りでも数人この部分を壊しかけている方を見ています。VORON関係の動画をいっぱい上げてるNEROさんも動画上でぶっ壊してます笑
なのでまだちゃんと動いているうちにこの部品を2-3個印刷しておくと安心です。壊れたら自分で作って取り替えればいいというのが自作プリンターのいいところですが、ココが壊れたら印刷できなくなりますからね。。。ABS印刷のできるプリンターがない場合はこれを真っ先に作成することをオススメします。
モデルはVORON TAPのリポジトリから取ってきてもいいですが、SIBOORのリポジトリ内にもキットに含まれているものはあるのでそこでもOKです。
[a]_Tap_Center_r8.stl
というファイル名のものがそれです。
StealthBurner部品
StealthBurnerの部品も問題が発生しやすい部分なので作成しておくと安心です。特にホットエンド部品を乗っける下の部分は印刷失敗してお化けが産まれてしまったときにどうしようもなくなる事があるのでおすすめです。ちなみにお化けとはコレのことです。
コレもまたいずれまとめると思いますが、この事件で新たにホットエンド全部とStealthBurner下半分、TAPほぼ全部を取り替えることになりました😭
印刷
それではABSフィラメントで印刷してみましょう。暖気以外の基本的な作業はPLAとかとさほど変わらないです。
暖気をしっかり行う
PLAでの印刷と大きく異なる点は出力時にビルドプレートと庫内の温度を高温に保ち続ける必要があります。というか庫内の温度を維持するためにビルドプレートも常に高温状態となります。
印刷開始前にVORONの前側ドアを閉めた状態でビルドプレートを100℃
に設定してしばらく放置します。時期によりけりですが真冬で室温が低い場合は30分ほど部屋の暖房がてら放置します。初期のSIBOORのprinter.cfg
では30分放置するとヒーターをオフにするので気をつけてください。
さらに暖気をしたほうが金属の熱膨張やリニアレールのグリスの温度などを考慮するとより精度よく印刷することができます。
ケープを塗る
ビルドプレートが温まっている状態でケープを塗る方が定着が良くなる気がします。100℃まで温まっているビルドプレートなので取り外す際は必ず軍手やタオルなどで掴むようにしてください。というかそうしないと熱すぎて耐えられません!
ビルドプレートから適度に離れたところから1-2秒スプレーします。全面に塗ってもいいですがスライスした時点でおおよそどのあたりだけ使用するかわかるのでそれを参考にしたほうが節約できます。
ビルドプレート面が水を撒いたようにテカテカするぐらいまで塗ってしまうと多すぎるので素のビルドプレートの質感が残る程度でOKです。想像よりも少なくてもしっかり密着します。
ケープを吹きかける際は必ずビルドプレートをVORON庫内から出して吹きかけてください。面倒だからと庫内で直接吹きかけると霧状のケープが漂い、回転しているファン(ノズルファン、パーツクーリングファン、Nevermore等)に付着して蜘蛛の巣みたいな糸状になって絡みつきます。最終には風量の低下や回転できなくなったり見た目のよろしくないです。
印刷開始して1層目をチェック
印刷を開始して1層目の状態をチェックします。PLAと違って糸引きが殆どなく加熱したノズル先から垂れてくる(oozing)こともないです。
パッと見問題がなくても、1層目の定着が弱いと層を重ねていく内にいずれ剥がれてくるのでPROBE_CALIBRATE
を実行するかFine Tuningから微調整を行ってz_offset
をベッドへと近づく方向へ調整します。個人的に以下の項目で定着度を判断しています。
- スカートを爪で引っ掻いてみると簡単に取れる
- ノズルに溶けたフィラメントがくっついてビルドプレートに乗らない(ABSではあんまりないかも)
- perimeterの線がうまく描けていない(特に鋭角な地点)
- infillに隙間が見える
- infillが波状に裂ける
- infillとperimeterの境目(移動が折り返す地点)に隙間があってビルドプレートが見える
特に太字になっている箇所がわかりやすいのでよくチェックします。直角や鋭角な地点でうまくビルドプレートに乗らず剥がれる場合はノズル温度を少し上げてみるといいかと思います。
ちなみにさっきのTAP部品の左側、これはビルドプレートが透けて見えてたり、線がなんとなくふにゃふにゃしているのでよろしくない状態となります。
逆にz_offset
がビルドプレートに近すぎる場合、以下の現象が起きます。
- ビルドプレートとノズルがこすれる音がする、擦れる跡つく
- スカートの出力幅が明らかに設定幅よりも太い
- スカートのフィラメントの色が薄い(半透明に近くなる)
- スカートの3-4週目ぐらいからなんかギザギザした線になってくる
- infillも途中からギザギザした線になってくる
- クリアランスの狭いモデルで、オブジェクト間の隙間が埋まってしまう
- ツールヘッドが印刷以外で移動するときに造形物と擦れる音がする
これらの症状が出ている場合でも印刷し切ることができますが、1層目の見た目が悪くなったりビルドプレートから剥がすのに苦労することになります。また、各所のクリアランスが狭くなりネジや部品同士を組み合わせようとしてもはまらないという状態になります。
こういったz_offset
のズレやフィラメントごとの特性を見極めるためにスカートを最初に出力してみるのがオススメです。
出力後
無事にABSでの出力が完了したら寸法通りか、層間での裂けがないかチェックします。TAPの土台の場合はネジ何かを通してみてチェックします。
ビルドプレート面には1層目とくっついていた箇所以外にはケープののりが残ったままになりますので、無水エタノール・IPAか自動車用のパーツクリーナーあたりを吹きかけて拭います。自分は面倒なんでそのまま次のケープを塗って印刷してしまいますが、特に致命的な問題にぶち当たったことはないです。
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そろそろこの長い旅路にも終りが見えてきました!残りの部品(スカートなど)を印刷していきます。